暗室

暗室(昭和 54 年)
暗室(昭和 54 年)

私は小学生のころから暗室が大好きで、現像液に浸した白い紙から、画像が浮き出てくるのを「なんて不思議だ、まるで魔法を見ているようだ」と、飽きもせず見ていました。暗室は面白いところだと思い始めたのです。
暗室は定着液に使う酢酸のすっぱい匂いに、現像液のアルカリの匂いが混ざって、独特の匂いがしていました。長じてから、覆い焼き、焼き込みの技術を習得し、得意わざにしていました。

あるワークショップで黒人の裸を撮影したとき、顔だけを10パーセントくらい光を制限してプリントしました。その人は、私の作品を見て大喜びしたのです。私はその喜びようを見て、なるほど、丸顔の人は細い顔にあこがれ、背の高い人は低いほうがいいと願っているんだと知りました。人間は自分の持っていないものを欲しがるんですね。そのことを撮影やプリントのとき、さらに修整に生かせば、お客様に喜ばれることを知ったわけです。